坂本鉄男 イタリア便り 帝王切開

 帝王切開の歴史は古く、古代ローマにさかのぼるともいわれる。もっとも古代ローマの法律では、死亡した妊婦の子宮を「切開」し、胎児を引き出すことを目的としていた。

 一説によると、この「切開」を意味するラテン語の形容詞チェザレアと、ローマの政治家「シーザー」のラテン名チェーザレの形容詞形が似ていたことから、シーザーがこの手術方法で生まれたとの伝説が生まれ、「帝王切開」の名称が広まったらしい。

 実際、ポンペイの発掘品の中には、胎児を引き出すための2千年前の手術用具があるほどだ。

 だが、本日の話題はこの手術の語源ではなく、イタリアでの「帝王切開」大流行についてである。

 有力日刊紙によると、世界保健機関(WHO)は、帝王切開による出産は全体の15%にとどめておくのが望ましいとしているが、現実は、ドイツの27%、スペインと英国の23%、フランスとデンマークの20%となっている。イタリアの37・8%、特にイタリア南部の45%は異常に多すぎる。

 原因は、自然分娩(ぶんべん)に対する指導と産婦用病床の不足などにあるというが、もちろん、初産年齢の上昇も原因に挙げられよう。

 ともあれ、昔から「お産」は女性にとって大変であることに変わりはない。

坂本鉄男
(11月14日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)