ローマのオペラ座の真ん中の天井からつるされている大シャンデリアはベネチアのムラノ島のガラス職人たちがクリスタルガラスを使って作り上げたもので、直径6メートル、重さ3トンもある。
1920年代に劇場が改築・改修されて以来、欧州一の大きさを誇っている。だが、地震国日本で生まれ育った私は真下の席に座るたび、地震の時に大シャンデリアが揺れ動く姿を想像し、万が一、落ちたら私を含め何十人もの人が即死するのだろうと余計なことを考えてしまう。
だがご安心。奈良の大仏のすす払いのように毎年とはいかないが、5年ごとに夏の休館中に1カ月かけて天井から降ろし、点検と掃除をしている。
なにしろ華やかな輝きをまき散らす2万7千個のいろいろな形状のクリスタルガラスを磨き、総計1万8千ワットの明るさで、劇場内を照らす270個の飾り電球を取り換えなければならない。
そればかりではない。大シャンデリアを支える天井の鉤(かぎ)、垂れ下がる250本のクリスタルガラスの列を支える17本の丸い枠の点検もしなければならない。
こんな大シャンデリアは、日本ならさしずめ「金食い虫」とばかり事業仕分けで撤去されかねないが、文化財保存とは金がかかるものであることを知るべきだ。
坂本鉄男
(8月29日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)