坂本鉄男 イタリア便り 偽ブランドに手を出すな

 今年の6月初め、ベネチアの近くの有名海水浴場イエーゾロで、オーストリアから来た65歳の婦人観光客がセネガル人の物売りからルイ・ヴィトンの偽小型バッグを7ユーロ(約790円)で買った途端、市警に摘発され1千ユーロ(約11万2800円)の罰金状を突きつけられた。

 イエーゾロには海水浴客を狙った偽ブランド売りが多く、取り締まりに手を焼いた市が「購入した者にも罰金」の条例を作っていたわけだ。

 罰金令状を受けたオーストリア婦人は当然ながら「どこにそんな条例がはってあるのか教えてほしい」と怒り心頭。

 一方、売人はセネガル人だと言うだけで身分証明書もお金も持っていない。それより一番慌てたのが観光を売り物にしているホテル業者と観光組合。「隣国のオーストリア人から見放されたら大変」と心配する。

 イタリアでの偽商品販売は、金額にして年間71億ユーロ(約8010億円)の巨額に達すると推定され、今年の初めから4カ月間だけで4200万個が押収されている。中国製が断然多いがイタリア国内で作られるものも多い。製造者や密輸入業者を逮捕すればよいのだが、手続きが複雑なため手が掛かる。結局、イエーゾロ市のような例が起こるわけ。観光客は絶対に偽ブランドには手を出さないこと。

坂本鉄男
(8月1日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)