坂本鉄男 イタリア便り 国有不動産

 昔の東京を知っている人は、今の都心の一等地の方々に軍が広大な不動産をもっていたのを覚えているに違いない。戦後から今日までにほとんどが民間に払い下げられてしまった。

 今のイタリアはちょうど戦後の日本と同じである。144年間続いた兵役の義務が2005年7月1日をもって中止されたが、いまだに軍は都市の真ん中のみならず、国の各地に元の兵営などたくさんの不動産を所有している。

 軍所有のものも含め国有不動産の総数は3万件におよび、建物は9500万立方メートル、土地は783平方キロ、つまり国土の0・26%を占めるという。これを観光資源として売却すれば国の借金など一遍に返済できるはずで、各地の目ぼしい国有財産が売却、あるいは賃貸を目的にリストアップされている。

 例えば、世界の観光地ベネチアでは、12世紀から16世紀まで海洋共和国ベネチアを支えた艦隊や商船隊を建造した約46ヘクタールの広大な造船所が含まれている。

 また、ラ・スぺーツィア湾のバイロンたち英国詩人が愛した周囲6・5キロメートルの美しいパルマリア島、サルデーニャ島南端の72平方キロの広大な射撃場なども入っている。

 エーゲ海などに多数の美しい島をもつギリシャは、経済危機を乗り越えるため島の売却や貸し付けを考慮中という。いったい、日本にはどんな売却ができるものが残っているのだろうか。

坂本鉄男
(7月4日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)