だいぶ昔のことだが、イタリア人の知人に突然、こう尋ねられたことがあった。
「日本では、夫と妻は一緒に寝てはいけないのかい」
「そんなことはないよ。昔、儒教の影響で“男女7歳にして席を同じゅうせず”といわれた時代も確かにあったがね。でも、君はなぜそんな質問をするんだい」
その理由が皆目分からなかったのだが、ここで知人は初めて理由を説明した。知人の話はこうだった。
彼の家に来るお手伝いが、以前日本人のイタリア支店出向社員の家に週2回掃除に行っていたのだという。ところが、夫婦仲はよいのに、30歳代後半の主人はダブルベッドで1人で寝て、奥さんはというと別の部屋で1人で寝ていたという。
イタリア人には想像できない夫婦生活だったというわけである。
日本で畳の家で1人ずつの布団で寝ていた夫婦にはダブルベッドは嫌だったのかもしれない。イタリア中を飛び回る忙しい猛烈社員の夫は家では1人でゆっくり寝たかったのかもしれぬ。だが、夫婦がベッドで肌を合わせて寝ることは夫婦和合の増進になる。
日本の少子化は夫婦の性交回数の世界まれなる少なさが一因なのかもしれない。これを打破するためにはダブルベッドの普及もひとつの方法だ。まさか政府が音頭をとるわけにはいくまいが。
坂本鉄男
(5月16日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)