だれでも幼いときにグリム童話集の「赤ずきん」を読んだに違いない。グリム童話集では悪いオオカミは最後に猟師によって殺され、赤ずきんとおばあさんは助かるが、多くの民話では赤ずきんもおばあさんもオオカミに食い殺されることになっている。
昔のヨーロッパではオオカミは人や家畜の大敵であったが、わが国でもニホンオオカミが1905年を最後に絶滅したように、イタリアでも1950年代末に大部分のオオカミは羊飼いたちに薬殺され、現在は中部イタリアの国立公園の山中に少数の群れが残るだけと信じられてきた。
しかし、絶滅の危機に直面した野生動物の保護が叫ばれる時代になったことも影響したのか、オオカミはひそかに増え始めていたばかりか山伝いに北上していたのである。
その結果、すでに生息していないとみられていたフランスとの国境に広がるイタリア領アルプス山脈の麓に100頭以上のオオカミが姿を現すようになったという。
オオカミが生息することは、放牧されている羊やヤギなど家畜が襲われることを意味する。
実際、数十万頭もの家畜を放牧しているこの地方の牧畜業組合によると、家畜の実害は年間300頭前後に上り、オオカミ対策が叫ばれるようになったという。
オオカミと人間の仲は昔から現在に至るまで決して和解できない運命にあるようだ。
坂本鉄男
(4月18日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)
(4月18日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)