サメは昔から人間を襲う獰猛(どうもう)な海の悪魔と考えられてきた。
神話の「大国主命と因幡(いなば)の白兎(しろうさぎ)」のサメ(山陰ではワニとも呼ばれる)はまだしも、スティーブン・スピルバーグ監督の映画「ジョーズ」の巨大な人食いザメは人間の大敵である。
だが、現在は「人食いザメ」と言ったら逆にサメの方から抗議が出る。日本では昔からサメは下級魚に分類され、切り取って干したヒレが中華材料として利用されるほかは、身の部分はほとんどがはんぺんやかまぼこ類、つまり「すり身」の材料に使われてきた。
しかし、ヨーロッパでは、フライやトマト煮などでも食べられ、イタリアは欧州連合(EU)最大のサメ漁獲国スペインに次ぐサメの消費国で、地中海の地元産では足らず、年間1万3千トンも輸入している。
また、最近のように「カニもどき」の原料の「Surimi」が世界語になる時代になると、世界中でサメの大乱獲が始まり、地中海のサメは昔の40%に減少した。
この結果、世界各地の海でサメの乱獲防止が始まり、3月下旬には絶滅危険野生動物の国際取引を規制するワシントン条約締約国会議で、大西洋に多く生息しフカヒレの材料としてよく知られるサメの一種の取引がEUの提案で、制限されることも議題に上がった。
今に「ヒト食いザメ」ならぬ「サメ食いヒト」の語が普通になるかもしれない。
坂本鉄男
(3月28日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)
(3月28日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)