坂本鉄男 イタリア便り 車はヒマ人のもの

 イタリアも不景気なはずなのに、昨年秋以来、ローマ市内の車の数は明らかに増えている。

 わが家の周囲でも道路の両側は路上駐車の車でビッシリだ。月に1、2回思いだしたように警官がやってきて目に余る二重駐車の車や歩道を勝手に占領している車に反則切符をはり付けるが、このペースで追いつくはずもなく「駐車違反の罰金とは運が悪い人間だけに振り掛かる一種の災難」と思われても仕方がない。

 なにしろ市民の多くがバスやトラムなどの公共交通機関を利用せず、勤めに行くのも買い物に行くのもすべて自分の車で済ませようとするから、道路が混雑するのは当然だ。

 昨年11月のある消費者団体の調査によると、ローマ市民が毎日渋滞によって失う時間は年間260時間、つまり年間11日に上るという計算結果だった。これは、ミラノの10日やナポリの9日と比べても多い。

 東京中心部の区をせいぜい2つか3つ合わせた程度の広さのローマ市内の道路が混雑するのは、路上駐車する多数の車によって道路の幅が半分に狭められていることも一因だ。

 このほか、市外から毎日300台以上も到着する大型観光バスと、週に少なくとも数回は中心部を練り歩くデモ行進も大きな原因になっている。

 要するに、市民が意識を切り替えない限り、ローマの交通渋滞の解消は到底不可能としか言いようがない。

坂本鉄男
(3月7日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)