町を散歩してイタリア料理の店に出会わないことが難しいくらい、今やイタリア料理は私たちの生活に慣れ親しんだものとなっています。
「食文化」はイタリアと日本を結ぶ最も身近な要素の一つであると言ってよいでしょう。
また、イタリア料理のみならず、最近ではスロー・フードに代表されるように、イタリア発の食文化をめぐる思想・運動が、世界を席巻するということも起きています。しかし、その一方で、数年前に邦訳が刊行された「ヘルストスキー『イタリア料理の誕生』(人文書院、2022年)が指摘しているように、近代のイタリアは(意外にも)慢性的な穀物不足に悩まされ、国民は低カロリーの食事で我慢せざるを得ませんでした。
ファシズム政権はこの状態を改善しようとしましたが、結局果たせず、その失敗を隠すために、質素な食生活こそが「イタリア的」であると礼賛しました。それが、第二次世界大戦後になって、欧米諸国が飽食の時代を迎えるなかで、ダイエットに相応しい「食」として、世界的にもてはやされるようになったというのです。ことほど左様に、イタリアと「食文化」との関わりは、一筋縄では理解できないようです。
今回の特集では、「食文化」と聞いてただちに想起される料理(素材や調理法)や、食事の作法・流儀、食に対する人々の考え方・思想、地域的な特色といった要素はもちろんのこと、文学・美術・音楽・映画に描かれる「食文化」(そういえば、美食家で知られる作曲家のロッシーニという人もいました)や、食とそれを生み出す基盤となる土地・農林水産業・地域経済との関わり(近年では「テリトーリオ」という概念に基づく研究も進んでいます)なども対象としたいと考えています。
皆様の寄稿を心よりお待ちいたします。