われわれ日本人は、昔から有名人の言葉を信用しすぎる傾向があるらしい。
その一例が「土用のウナギ」だ。江戸時代の博学で名高い平賀源内が真夏の脂のないウナギの売れ行きが悪いのを嘆いていた知人のウナギ屋のために「本日、土用の丑の日」なるウナギの味と全く関係ない宣伝文句を貼らせたところ、これが大当たりをして、現在の日本人と土用のウナギの関係が生じたと伝えられる。
実際、ウナギの一番うまいのは脂がのった秋から冬である。イタリアでは地方によって、典型的なクリスマス料理の一つにウナギ料理が加えられる。
一番簡単なものは、はらわたを除き、太いものは皮をむき、7~8センチくらいのぶつ切りにし、レモン汁とオリーブ油を混ぜたものに香辛野菜を加え、この中にウナギのぶつ切りをつけておき、オーブンで焼いたり油で揚げたりしたものだ。もちろん、トマト煮も一般的であるし、面倒なら食料品店でオリーブ油漬けのぶつ切りの焼きウナギを購入する人々も多い。
ここで結論を言えば、いずれのイタリア式ウナギ料理も日本式「かば焼き」の味に慣れたわれわれの舌には落第だ。もっとも、ウナギ通のイタリア人は「かば焼きのように手を加えすぎたらウナギ本来の味は消えてしまう」というのだが。
坂本鉄男
(2019年12月24日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)