カトリックの総本山ローマ市内のバチカンにあるサンピエトロ大聖堂の名前の由来であるサンピエトロ(ペテロ)は、イエス・キリストの12使徒の内で最も信頼され天国の鍵をも託されたと伝わる。
このサンピエトロと同じ名で呼ばれる魚がある。日本では今が旬の白身魚で、「刺し身によし焼いてよし」とされるマトウダイだ。地中海でも獲れ、ムニエルに最適とイタリアの人々にも親しまれている。
日本でこの名は、腹にある丸く黒い斑点が弓の的に似ていることが由来というが、サンピエトロの名を冠した背景には、新約聖書のマタイ伝17章にあるそうだ。
現在のイスラエル北部に位置するガリラヤ湖畔で、サンピエトロは当時、シモンと名乗る漁師だった。イエスが弟子たちとその湖畔で神殿税の納入を求められたとき、イエスは彼に湖で釣りをさせ、「最初に釣れた魚の口の中にある銀貨」で納税するよう命じた。この時釣れた魚の腹にサンピエトロが触れ、丸い斑点ができたという。しかし、ガリラヤ湖は淡水で、マトウダイが生息するはずもなく釣れるとは考えられない。
マトウダイは、頭が大きく背びれには鋭いとげがある。家庭でムニエルに調理するよりはレストランで食べる方が好みである。
坂本鉄男
(2018年9月23日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)