坂本鉄男 イタリア便り 子供の安全は二の次? 予防接種を巡り露呈した〝寄せ集め内閣〟の実行能力

イタリアの新学年は9月中旬から10月初めにかけて始まる。これを前に、感染症に対する予防接種をめぐる論争が起きている。

 昨秋、前政権の保健相が、小学校就学前の小児を対象に予防接種を義務化した。イタリアでは、小児がかかりやすい水疱瘡(ぼうそう)や麻疹(ましん)などの感染症に対する予防接種を受けたことを示す証明書が発行されるが、入学前にこれを学校に提出することが義務付けられた。

 ところが、今春の総選挙でポピュリスト(大衆迎合主義)政党の連立内閣が発足すると事態は一変。選挙公約に予防接種不要論者の意見を取り入れた、連立第1党の「五つ星運動」出身の新保健相が「証明書の提出義務は1年先送りし、新学年度は接種済み自己申告書の提出だけでよし」としたのだ。

 証明書の提出義務を解消したら、予防接種の受診が徹底されず、児童らの間で感染症の蔓延(まんえん)を防げないのではないか。全国校長連盟は「未接種児童の受け入れ拒否」を決め、全国小児医師会は「接種義務の履行」を求める事態となった。

 世間の反発が相次ぐ中、一旦は証明書の提出を義務化する法案が議会に提出されたが、結局は「今年度は自己申告で可」とする法案が通った。寄せ集め内閣の政策実行能力に疑念を禁じ得ない。

坂本鉄男

(2018年9月9日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)