坂本鉄男 イタリア便り ローマ軍団の常備食だった「ペコリーノ・ロマーノ」と生のままのソラマメ

春の到来とともにローマ市民は、祭日や日曜日には家族や友人たちとピクニックを楽しむ。最近は車にバーベキューの道具一式を積んで出かける人が多い。バーベキューの材料は、鶏肉や昨年の秋に生まれた子羊の肉、生ソーセージなどが主役だ。だが、一種のつまみに必ず用意するのが莢(さや)ごとのソラマメと羊乳のチーズ「ペコリーノ・ロマーノ」だ。

 ソラマメは莢からむいて生のまま食べるが、塩味のやや利いたチーズと相性が良い。

 日本人はソラマメの初物は酒のさかなとしてゆでて食べるのが普通であるため、初めはやや青臭い味でなじめないが、慣れてくると「初夏の味」としてなくてはならないものになるから不思議だ。

 羊の乳で作るチーズ、ペコリーノの歴史は古く、古代ローマの博物学者で軍人でもあった大プリニウスの記述にも出てくるほどだ。

 保存が利くことと高い栄養価のためローマ軍団の常備食に加えられていたという。ペコリーノ・ロマーノと呼ばれてはいるが、現在ではローマ近辺産ものは少なく、羊飼いの多いサルデーニャ島産のものが大部分である。切って食べるには6カ月ほど熟成させたものが、すり下ろしてパスタにかけるには1年少し熟成させたものが良い。

坂本鉄男

(2018年5月6日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)