イタリアのある雑誌によると、スイスでは今年の3月1日から、伊勢エビやオマールエビなどを生きたまま熱湯に入れてゆで上げるのを禁止しようと考えていたという。理由は、一気に殺すのと違って、熱湯の中で苦しませて死なすのは残酷だからだとか。
安土桃山時代の大盗賊で「釜ゆでの刑」にされた石川五右衛門が聞いたら「今度生まれ変わってくるならスイスだ」と思うに違いない。
だが、海がないスイスだとオマールエビなどは、爪を縛られて氷詰めにされ運ばれてくるだろうが、これも残酷といえば残酷だ。
イタリアでは動物を虐待すると罰せられるが、魚やエビに対する虐待禁止法というのは聞いたことがない。一度、金魚や熱帯魚の水槽の形が問題になったことがあるだけだ。
2月と3月は豚を殺して生ハムやサラミ類を作る季節である。また、春は昨秋生まれた子ヒツジの食べ頃である。
ヨーロッパ人は昔から牛や豚や羊を殺してその肉を食べ続けてきたが、この気の毒な家畜たちの殺されるときの苦しみに同情する話は聞いたことがない。
今に、「鯨の肉を食べる日本人は残酷だ」だけでなく、魚やエビの「生き造り」を食べるのも残酷だと言い出すかもしれない。
坂本鉄男
(2018年4月22日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)