毎回ご好評を頂いておりますこのセミナーも今回で10回目を迎えましたが、特に今回は、開催のかなり前から満席になるお申込みを頂き、皆さんの関心の高さが伺えました。
講師は、日伊協会でイタリア語総合コース、歴史のクラスを担当しているFabiana TORRE先生。今回のテーマであるパエストゥムのすぐ近く、南イタリアのサレルノ出身、大学で考古学・文化財を専攻されていたFabiana先生ならではの大変興味深いお話を伺うことができました。以下にセミナーの内容を簡単にご紹介させていただきます。
パエストゥム(Paestumイタリア語読みはペストゥム)は、カンパーニア州ナポリの南に位置する古代ギリシャの遺跡群で、ユネスコ世界遺産にも登録されています。なぜ南イタリアに古代ギリシャの遺跡が残っているのでしょう?
紀元前8世紀頃より、ギリシャ本土が手狭となった古代ギリシャ人は、地中海各地に植民地を広げていきます。ギリシャ人が多く移り住んだ南イタリアは「マグナ・グラエキア(大ギリシャ)」と呼ばれ、その1つであるパエストゥムも紀元前600年頃、交易拠点として築かれました。当時はギリシャ名で海神ポセイドンにちなんでポセイドニアと呼ばれ、現在でも、当時建設された3つものドーリア式神殿を見ることができます。
古代ギリシャの神殿群で、これほどまでの規模のものが現存している場所は他にないといっても過言ではないでしょう。その後、紀元前273年頃にはローマ人に支配され、ローマの都市パエストゥムとなります。この時代に、円形闘技場、フォロ(広場)など公共施設が作られ、引き続き商業中継地として栄えるも、洪水による湿地化やマラリア、サラセン人からの侵略などで荒廃していきます。
その後、パエストゥムの遺跡が再発見されたのは、18世紀後半です。たちまちヨーロッパ人のグラント・ツアーの人気目的地の一つになり、ドイツの文豪ゲーテや哲学者ニーチェも足を運びました。20世紀になってからネクロ―ポリ(墓地)の発掘が行われ、フレスコ壁画のある墓用の石版などが数多く出土し、遺跡の横にある国立考古学博物館に保管されています。
その中で最も有名なものが、「飛び込み男の墓」と呼ばれる墓用の石棺に描かれたフレスコ壁画です。古代ギリシャ文明を今に伝える非常に貴重なものですが、絵画が意味するものは現在でもはっきりとは解明されておらず、一説には、死後の世界・来世に飛び込む姿を象徴している、と言われています。
パエストゥムは、イタリア国内でも、また日本を含めた海外でもまださほど知名度が高くありません。世界遺産であるにもかかわらず、観光客もそれほど多くありませんので、のどかな牧歌的風景の中でゆったりと鑑賞できます。皆さんも、南イタリアを訪れる際には、ぜひ立ち寄られてみてはいかがでしょうか。
尚、Fabiana先生は4月からの春期講座で下記のイタリアの歴史に関するテーマ別講座を担当します。体験レッスンもございますので、ご興味のある方はぜひ事務局までお問い合わせください。