メディア王で「超大金持ち」のベルルスコーニ元首相と、2014年に離婚が成立した元夫人。法廷を舞台にした両者の争いで、16日、次のような判決が下された。「元夫人はこれまで受け取った扶養料のうち6千万ユーロ(約80億円)を返還すべし」
当欄でも以前に紹介したように、5月に別の裁判でイタリア最高裁判所が下した判決は、これまでのイタリアの離婚後の扶養料の考え方を根底から覆した。
夫は離婚後も、妻が従前と同等の生活水準を維持できる額を支払うとされてきたが、「妻が資産を有し経済力がある場合は、扶養料は必要ない」との初判断を示したのである。不動産を処分するなどして苦しい生活を余儀なくされてきた男たちにとっては福音とも呼ぶべき判決だが、歓迎したのは大富豪も同じだった。
冒頭の判決で、離婚以来元夫人に毎月140万ユーロの扶養料を支払ってきたベルルスコーニ氏の減額要求に対し、ミラノ高裁は「元夫人は経済的に十二分なる能力を有するため、元夫から扶養料をもらう資格はない」と判断した。元夫人は3億ユーロ以上の資産を有するとも推定されている。
イタリアの法廷の正面には、「法は万人に平等」のモットーが掲げられている。元首相はニンマリと眺めているのではないか。
坂本鉄男
(2017年11月26日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)