イタリア語で「コッツェ」とはフランス語の「ムール貝」のことである。日本にも「イガイ」の名前で存在するが、小さくて食用としてはあまり一般的ではないかもしれない。イタリアのレストランで魚介類のパスタを注文すると、エビ、アサリなどのほかに、黒くてやや細長い、大ぶりのコッツェがたくさん入ってくる。案外身が小さいものも多いが、コッツェだけを注文すれば大きなものを山盛りにした皿が運ばれてくる。
ヨーロッパの海、特にイタリアやフランスの静かな海では、いかだがずらりと並び、波に揺れている。コッツェの養殖いかだだ。いかだから海底にわらのひもを垂らし、稚貝を付着させて大きくさせる方法をとる。
ナポリ衛生局などは、A型肝炎にかかる危険が非常に大きいとして、きれいな海水で養殖されたもの以外は生で食べないよう注意喚起している。もっとも、温度85度で15分、100度で1分煮れば安全というから、十分火を通したものを食べれば問題ない。
一方、家庭でコッツェを料理する際は掃除が大変だ。貝からわらを引き抜き、金属たわしで貝の付着物を落とさなければならない。
結局、レストランで食べるべき代表的貝料理の一つである。
坂本鉄男
(2017年8月27日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)