イタリア北部ミラノ近郊で名の知れたディスクジョッキー、通称ファーボ氏(40)が2月末、ジュネーブ近郊の安楽死専門病院で幇助(ほうじょ)付き自殺を遂げた。
ファーボ氏は4年前の6月のある夜、自動車事故を起こし、失明と四肢のまひに加えて絶え間ない激痛という後遺症を背負うことになり、生きる望みを断たれた。だが、イタリアには延命治療措置の放棄を希望する遺言制度がなく、安楽死援助団体のサポートでスイスへ「自発的自殺の途」についたわけである。
スイスには毎年約200人のがん末期患者を主体とするイタリア人が安楽死を求めて赴くが、スイスの病院側の厳しい審査と話し合いの結果、40%が再び帰国するといわれている。
安楽死専門病院は人道的見地から措置を施すのであって、決して営利目的で安易に受け入れているわけでない。また、イタリアの刑法には禁錮5~12年の「自殺幇助罪」があり、公然とスイスに付き添っていくことはできない。
だが、今回の一件の影響は大きく、世論調査機関AWGによると、20年前のイタリアで「安楽死」への賛成は僅か10%だったのに対し、今回は条件付きを含め74%が「賛成」と答えた。
国会も長い間たなざらしにしてきた「安楽死関連法案」を近く審議する予定となった。
坂本鉄男
(2017年3月5日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)