坂本鉄男 イタリア便り いくら美しくても「菊の花束」はイタリア人の家には絶対NG

 日本人にとって春の花の代表は桜であり、秋の花の代表は菊である。日本には昔から数百種の自生の野菊があり、よもぎ餅の材料のヨモギも仲間の一つだ。菊は平安時代から観賞用植物として、あるいは薬用植物として栽培されてきた。現在も日本中に菊の愛好会があり、毎年品評会が催されている。

 また、後鳥羽上皇(1180~1239年)が菊の花を愛し、自分の調度品に菊の花の模様をつけさせたことから、菊の花は皇室の御紋となったといわれる。

 イタリアでも古代より菊の葉は胆汁の分泌を促し、たんを切る効果があるほか、除虫効果もある薬用植物として栽培されていた。

 ただし、イタリアではこの美しい花は観賞用の用途はほとんどないと言ってよい。理由は、菊の花の最盛期が11月2日のカトリック教会暦の「死者を記念する日」に近いためである。

 イタリア人は日本人より墓参をよくする国民であるため、10月下旬からは墓地の近くの花屋は色とりどりの美しい菊の花で埋め尽くされ、墓地も菊の花だらけになる。

 当然ながら菊花の値段が一番高い季節でもある。イタリア人の家を訪問する際は、いくら美しくても菊の花束を持参することは絶対になさいませんように。

坂本鉄男

(2016年10月23日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)