ローマのサンタ・マリア・イン・コスメディン教会の柱廊にある彫刻「真実の口」は、映画「ローマの休日」でグレゴリー・ペックがオードリー・ヘプバーンを驚かそうと、口に入れた手が抜けなくなる演技をして有名になって以来、観光客の聖地になっている。
ところが、さる8月、教会側が「建物の維持・修復費」の理由で口に手を入れて記念写真を撮る観光客から1人2ユーロ(約220円)の料金を徴収するようになった。早速、観光ガイド組合は「彫刻そのものに宗教的な意味はなく、これまで通り無料とするのが当然だ」と抗議した。
ミケランジェロの「ピエタ」像のあるサン・ピエトロ大聖堂をはじめ、カトリックの教会は、原則として入場無料である。結局、ローマ司教区が介入して、再び「お布施入れ」を残して無料に戻った。
日本に詳しい友人が言った。「君、そんなことを言っても京都や奈良のお寺を考えてごらん。大人1人500円が普通で、苔寺は入場予約が必要な上、1人3000円も取るんだぜ。お寺さんだって維持・管理費の捻出で大変なんだよ。220円なら日本の半額ではないか」と教会側に理解を示した。言われてみればそうかもしれない。観光客はなにがしかのお布施を入れるべきなのかもしれない。
坂本鉄男
(2016年10月2日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)