新興政党「五つ星運動」はローマ市長の座と市議会を制覇したが、党内分裂で市民が期待した市政刷新はおろか、ゴミ収集やバス、地下鉄など市営交通の状況も一向に改善されない。
先日、ローマの下町トラステベレで、友人とワインを飲んでいた47歳の女性が足の親指を大きなネズミにかまれた。放置されたゴミに群がるネズミを見かけることはあったが、人が襲われたのは初めてである。
幼いときに読んだグリム童話「ハーメルンの笛吹き男」を思い出した。
伝承によると、1284年、ドイツの町ハーメルンは大繁殖したネズミに悩まされていた。そこへ笛を手にした男が現れ、「報酬をくれるならネズミを退治しよう」と申し出た。町の人々が承諾し、男が笛を吹くと、町中のネズミが集まり、男に川の中に導かれて溺死した。
だが、人々は男に約束の報酬を与えなかった。ある日、男が再び現れ笛を吹き始めると、町中の子供が集まり男の後に従って山の洞窟の中に消え、二度と帰ってこなかったという。
ローマに限らず、ネズミの被害に悩まされる都市、公約を守らない政治家の多い都市、腐敗職員の多い都市の市民らは、どんなにか「ハーメルンの笛吹き男」の出現を待ちわびていることか分からない。
坂本鉄男
(2016年9月11日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)