坂本鉄男 イタリア便り お金に執着のない人たちが作る修道院ビールの喉ごし

 「トラピスト修道院」と聞くと、「函館の近くにあるバターやビスケットで有名な修道院だ」と思う人もいるかもしれない。だが、ヨーロッパの、特にベルギーの幾つかのトラピスト修道院(カトリック修道会の一つで厳律シトー会修道院の別称)では、牧畜や農産物から作った食品のほかに、本当の手作りビール、それも「国際トラピスト協会」の厳密な検査を受け、特別なマークの使用が許されたビールを造っている。

 ローマ市の南にあるこの派の修道院は、南欧で唯一の特別ビール製造所を持っている。

 10人のシトー会修道士たちが16ヘクタールの土地を耕し、純粋な原料で作るチョコレートやジャムやオリーブ油などで以前から有名だった。だが、何年か前からビールの醸造に乗り出したところ、長年の食品製造で鍛えた味覚の持ち主たちだけあって、見事な味のビールを造ることに成功した。

 ただ、お金には執着のない修道士たちだけに、他の収益と同様、ビールの収益も修道院の運営経費と慈善活動の足しにするだけで満足している。

 このため、せっかくのうまいビールも、どれだけ購入希望者がいようとお構いなしに、年間1万リットルしか造らない。もっとも、こうしたところに味の秘密があるのかもしれない。

坂本鉄男

(2016年7月31日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)