インタビュー川端則子さんに聞く『古森のひみつ』出版にあたって

去る6月16日、日伊協会の受講生、川端則子さんの翻訳本『古森(ふるもり)のひみつ』(ディーノ・ブッツァーティ作 Il segreto del bosco vecchio)が岩波少年文庫より出版されました。

この機会を利用して、川端さんにイタリア語や翻訳に対する想いを伺いました。

小さい頃から、子供と童話が大好き、大学ではドイツ文学を専攻し、元々「言葉」への関心が深く、語学好きという川端さん、イタリア語との出会いは27年前だそうです。

英語やドイツ語の他にも何か別の言語を学んでみたい、という動機から、フランス語よりも簡単そう、オペラのイタリア語の心地よい響きが好き、という理由でゼロから始めたイタリア語の学習が、今回、翻訳本の出版という具体的な形で結実しましたが、転機は、日伊協会での白崎容子先生と関口英子先生の講座との出会いだったそうです。

総合クラスでイタリア語の文法の基礎を学び、講読にも挑戦したくて受講した白崎先生の授業で、イタリア語を読みとく楽しさを教わりました。そして出会ったのが、関口先生の「児童書を訳す」という講座でした。

もともと児童書に興味があった川端さんは、迷うことなく受講を決意します。

関口先生の授業では、単語の訳し方や文法はもちろん、翻訳のテクニック、作品の背景にあるイタリアに関する知識、出版業界の情報など、翻訳に不可欠な様々な要素を学ぶことができ、クラスメートと切磋琢磨しながらの授業はとても刺激的で、他の受講生の訳文を読むのも大変勉強になるそうです。

挿絵 山村浩二

関口先生の講座では、「いたばし国際絵本翻訳大賞」の入賞者も複数輩出しています(川端さんも第12回のイタリア語部門特別賞を受賞しました)。川端さんは、現在でも両先生の講座を受講されていますが、「良い先生方に出会えて自分は本当に恵まれている」としみじみと語っています。

『古森のひみつ』は、川端さんの初めての翻訳本です。

10年ほど前に偶然イタリアで見つけた原書があまりに面白く、たまたま当時の関口先生の授業で出された夏休みの宿題「好きなイタリア語の原書を見つけて、レジュメにまとめる」として提出したのがきっかけで、本格的な翻訳作業にとりかかったそうです。

川端さん曰く、ブッツァーティの作品はどれも不思議な味わいをたたえた幻想的なスタイルで書かれ、そのなかに怖さ、寂しさ、哀しみ、あたたかさ、そして独特の透き通った美しさがあふれているとのこと。なかでも本書は、訳しながら、とても幸せな気持ちになったそうです。

物語は、美しい古森を背景に、いろいろな登場人物がユニークなエピソードをつむぎだし、それらが互いに導きあって進んでいきます。ところどころに挿入されている挿絵も、雰囲気のあるとても魅力的なものです。

川端則子さん

みなさんもぜひ、手にとって読んでみてください。

最後に関口先生からもコメントをいただきました。

「翻訳は、原書を愛し、それを多くの人と共有したいという気持ちがあってこそ。川端さんは、『古森のひみつ』に対して、誰にも負けない思い入れをお持ちでした。

その思いが、推敲を重ねられた美しい訳文にこめられています。お一人でこつこつと訳された作品が形になり、私としてもたいへん嬉しいですし、80年も未訳だったブッツァーティの素晴らしい幻想物語が日本語で読めるようになったことは、海外文学ファンの方々にとっても画期的な出来事だと思います」。