Mercurio, figlio di Maia (水星の母は5月の女神)

こんにちは。爽やかな緑の季節、いかがお過ごしですか?ゴールデンウィークで心身ともにリフレッシュなさったでしょうか?新緑まぶしい5月にちなみ、今回のお便りは水星Mercurioをテーマにお送りしたいと思います。

イタリア語に親しい皆さんがご存知の通り、現代イタリア語では5月をmaggioと呼びます。その語源は、古代ローマ神話の春と豊穣の女神マイアMaiaに遡ります。メーデーのもとになった5月1日は女神Maiaの祭りに由来し、その際に豚を生贄としてささげていたことからイタリア語のmaiale(豚)も女神の名から派生したのではないかと言われています。そして、女神Maiaは水星を司る神メルクリウスMercurioの母親。そのため、詩人ダンテ・アリギエーリは水星をMaiaの別名でも詠っていました。

水星は、現代イタリアではMercurioと呼ばれています。水星は古くから人類に馴染みのある星で紀元前3000年ごろには発見されており、古代ギリシアでは水星が太陽の周りを早く回ることから足の速い神ヘルメスの名がつけられました。ギリシア神話のヘルメスがローマ神話のメルクリウスに当たるように、水星はラテン語でMercuriusとなり、イタリア語でMercurioとなりました。ラテン語のMercuriusは商人を意味するmerxやmercatorから派生したとされ、色々な役割を担う神メルクリウスは、商売、交換、泥棒、雄弁などをつかさどる神であり、また神々の使者とされていました。多くの彫刻や絵画では、羽の生えたサンダルや帽子を身に着け、使者の杖を持った姿をしています。また、イタリア語で水曜日を意味するmercoledìは、ラテン語のMercŭrī dies(メルクリウスの日)から生まれています。

さて、水星は太陽系で最も小さく、最も太陽に近い惑星です。水や空気はほとんどありません。ゆっくりと自転していることもあり、地表の温度は激しく上下します。日の当たる昼間は摂氏400度以上になり、夜は-160度まで下がると言われています。イタリアの天文学者Giuseppe Colombo(1920-1984)が発見した水星の公転と自転の関係はとても興味深く、それをもとに計算すると、夜明けから次の夜明けまでにあたる水星の1日は、太陽の周りを一周する水星の1年の2倍の時間がかかります。つまり、水星の1日を過ごすと2年が経過していることになるのです。

また、水星の表面には、彗星や隕石が衝突を繰り返したため多くのクレーターがあり、探査機「マリナー10号」が1970年代に撮影した姿は月にそっくりです。水星はいまだに多くの謎に包まれているため、来年打ち上げ予定の日欧共同水星探査ミッションには大きな期待が寄せられています。2017年1月に打ち上げ、2024年から約2年にわたって観測を行う予定とされているこのミッションは、先述の科学者Giuseppe Colomboの愛称にちなみ「BepiColombo」と命名されています。

イタリア語の単語mercurioには、水星や神メルクリウスのほかに水銀という意味もあります。語源には諸説あり、錬金術で水星が金属をつかさどることにちなんだ、神々の間を行き来する使者メルクリウスと水銀の滑らかな動きが結び付けられた、などと考えられています。水銀はargento vivoとも呼ばれ、「avere l’argento vivo addosso」という表現で使うと、エネルギー溢れる子供のように「じっとしていられない、いつも動き回っている」状態を表します。

私たちも水銀のように走り回る子供を真似て元気に動いたら、五月病もなんのその、憂うつな気分もどこかに飛んでいってしまうかもしれませんね。どうぞ素敵な初夏をお迎えください。

ダンテ・アリギエーリ・シエナ
ヴァンジンネケン 玲