友人から京都御所の満開の桜の写真が送られてきた。これを見てずいぶん昔に、日本大使館の依頼でイタリア中部トスカーナ州の山奥のタッラという町で「日本人と桜」について講演したことを思い出した。
この町は、首相を5回も務めた超大物政治家の選挙地盤であり、11世紀に4本の線の上に四角い音符を書いて五線紙の源を作ったグイド・ダレッツォの生まれ故郷といわれている。
講演で、「日本人の桜花をめでる伝統と文化」について話したら、町長が「長年のわれわれの疑問がやっと解けました。日本人が桜の実ではなく、花を愛することがよく分かりました」とあいさつした。
何が「疑問」だったのか。町長によると、この町は有名なサクランボの産地で、かつて東京都からイタリアに贈られた桜の苗木の一部が大物政治家の斡旋(あっせん)で分け与えられた。町民一同、日本の桜がどんなに素晴らしいサクランボを実らせるのかと楽しみにしていたが、売り物にもならない小さな実しかつけず、結局は伐採されてしまったというのだ。
同じとき、ローマ市に贈られて南端の人造湖の周囲に植えられた150本の桜は、その後寄贈された桜を含めると約1400本に増え、毎年見事な花を咲かせ多くの花見客を集めている。
坂本鉄男
(2016年4月24日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)