坂本鉄男 イタリア便り アフリカで特別聖年宣言

「慈悲」を主題とする今回の「特別聖年」は、来る12月8日、法王自身によるサン・ピエトロ大聖堂の「聖なる扉」(ポルタ・サンタ)の開扉で始まる予定であった。だが11月29日、アフリカを歴訪中だった法王フランシスコは、これまでの慣例を破りローマのサン・ピエトロ大聖堂ではなく、最後の訪問地の中央アフリカの首都バンギの大聖堂の大扉を「聖なる扉」として開き、予定より10日も早く特別聖年の開始を宣言したのである。

法王は、「この地こそ戦乱に苦しみ平和を求めている地である」として、バンギを特別聖年の精神的首都に選んだのである。

また、今回の法王の行動は、これまでカトリック教会の聖職者に「真の布教とはローマから離れた辺境の地で信者にじかに触れて行うもの」と呼びかけてきた法王が、まさに範を示し、貧しく、しかも宗教的・政治的紛争の絶えない辺境の地の中央アフリカで、平和と融和と慈悲の心を諭す「特別聖年」の開始を宣言したともいえよう。

聖年期間中、イタリア内務省は国防省に武装兵士900人の増強を要請し、バチカンを含むローマ市内の特別警戒に当たっている。

何事もなく特別聖年が終了し、「聖なる扉」が2025年の次の聖年に向け無事に閉じられることを祈りたい。

坂本鉄男

(2015年12月6日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)