「罪を憎んで人を憎まず」などと言っても、イタリアにいるとむなしく感じることもある。
例えば、幼児を抱えた女性の受刑者の場合だ。乳飲み子なら母親とは離れられないし、乳児にも母親と一緒にいる権利があるのではないか。
日本では子連れの女性受刑者がどのように扱われているのか知らないが、イタリアの例を報告する。イタリア法務省の発表によれば、7月15日現在で母親と一緒に刑務所内で暮らしている幼児の数は34人だそうだ。もっとも、大部分の女囚は幼児と一緒に暮らせるような特別施設のある刑務所に収監されており、母親と一緒に本当の刑務所暮らしをしている幼児はわずか9人だという。
イタリアの施設はただでさえ不衛生で汚いことで知られる。9人とはいえ、幼児が母親と一緒に暮らしているのはただごとではない。第一、幼児たちが片言が話せるようになって最初に覚える言葉は、「看守」とか「独房」とか、普通の幼児が覚える言葉とは全く違うようだ。
問題を重視したイタリア上院の人権問題委員会は、早急にローマに小さなアパート式の特別施設を造り、母親と幼児がともに暮らせるようにするという。今後、子連れの女性受刑者が多くなるとの予想もある。
坂本鉄男
(2015年11月15日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)