坂本鉄男 イタリア便り “柑橘王国”で人気呼ぶ日本のミカン

イタリアではミカンもブドウもタネ無しはほとんどない。ところが、最近わが家で購入するミカンは甘くてタネがない。八百屋に聞かせたところ、「ミヤカワ」という名前だという。なんと日本名ではないか。早速調べたら、温州ミカンの早生の一種で、1910年ごろ現在の福岡県柳川市の宮川氏宅で発見された原木の改良種、つまり日本原産ミカンであるという。

ゲーテの小説を原作にトマが書いたオペラ「ミニョン」でも、「君よ知るや南の国、香る風にオレンジの花」とあるように、イタリアは昔から「柑橘(かんきつ)類王国」として名高い。作付面積もシチリアを中心に17万ヘクタールに及び、60%がオレンジで、マンダリン(つまりミカン)類が22%、レモンが16%で、柑橘類は重要な輸出農産物である。

この王国によくぞ日本種が入り込んだものだと感心したが、「ミヤカワ」は収穫量や甘みなどの点で優れているため、すでに約20年前からシチリアで栽培が始められていた。

イタリア市場を席巻する日本原産のリンゴの「ふじ」、評判の良い日本種のコメ、値段は高いが味の良さでは定評のある和牛肉でも分かるように日本の農業・畜産技術は非常に高い。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の締結などで弱気になることは全然ないと思うのだが。

坂本鉄男

(2015年11月8日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)