日本と同じようにイタリアもイノシシ被害の増加に頭を悩ませている。イノシシはイタリア全国で100万頭生息すると推定され、毎年、農産物被害だけでなくイノシシに襲われて死傷者も出ている。このため各州当局は毎年の過剰な生息頭数を推計し、射殺許可頭数を決めている。
例えば、今年は約20万頭にも増えた中部イタリアのトスカーナ州では、農業局が12万頭を適正生息数としているため、8万頭まで射殺許可が出るはずだ。トスカーナ州では、地方のレストランでイノシシの煮込み料理を出すほか、生ハムもお土産品の一つだ。
だが、一般の家庭でイノシシ料理をこしらえることはほとんどない。ワインの産地キャンティ地方のど真ん中に住む知人など、ブドウ畑を荒らしにくるイノシシを毎年10頭も射殺するが、ワインと香草をふんだんに使った煮込み料理しか知らない。この肉のうまい料理法が普及すればイノシシを減らせるのにと思ってしまう。
イノシシが増えたのはハンター数が激減したからである。もともとイタリア人は狩猟好きな国民だったが、野鳥を撃ち殺し過ぎてヒバリまで姿を消し、猟銃を持つ楽しみが減ってしまった。イノシシの激増には、「自業自得」という面もあるようだ。
坂本鉄男
(2015年10月18日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)