昔、カトリック教がイタリアの国教であった時代には、結婚とは「生涯解消のできない聖なる取り決め」であった。イタリアが共和国になって離婚法が成立した後も、過去40年間は離婚には裁判所の判決と最低3年間の別居が必要であった。
ところが、今年5月から離婚法が大幅に簡素化されて裁判所の管轄から離れ、必要な別居期間も夫婦合意の離婚であれば6カ月に短縮されたのである。
さて、離婚法の簡素化は当然ながら離婚の急増をもたらした。中でも多いのは44~54歳の年齢層で、男性の年齢が平均44歳、女性の年齢が41歳だ。結婚後、それほど年数がたっていない夫婦が多いという。
それよりも驚くべき現象は、65歳以上の離婚請求が激増したことである。日本でも「熟年離婚」という言葉があるが、なんと離婚請求の20%は65歳以上の夫婦からだという。
65歳以上の夫婦からの離婚請求は、1995年には全体のわずか5%だったから、その割合は20年間に4倍に増えたわけだ。洋の東西を問わず、年をとって我慢し切れなくなるとは、結婚とは初めから「非常な忍耐を伴う重荷」なのかもしれない。
生涯をともに暮らす夫婦は、英雄的なまでに我慢強さを持った夫婦だともいえる。
坂本鉄男
(2015年9月27日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)