坂本鉄男 イタリア便り ツバメが姿消した都市

2カ月前、トスカーナの田園に囲まれたホテルのテラスで、夕方になると虫を捕る無数のツバメが空を舞うのを見て、「昔の東京のど真ん中での夕方もこんな風景だった」と思い出した。今や世界の大都市から「春の到来を告げる鳥」として親しまれたツバメは姿を消してしまったのではないか。

イタリアのある雑誌によると、ツバメの減少の最大の原因は、毎年同じ場所に帰ってきて巣を作る習性のあるこの鳥にとって、帰ってきても巣を作る場所が姿を消してしまうことにあるという。

このため、イタリアでは農村部の小さな町からトリエステのような大きな都市にいたるまで、ツバメの巣を壊さないようにするか代用となるものを用意するような取り組みが始まっている。

去る6月中旬、ローマ法王フランシスコがアッシージの聖フランシスコ(1181~1226年)の詠んだ「被創造物賛歌」の冒頭の句を題とする回状(全信者に対する手紙)を発表した。「人類が共通の家である地球をエネルギーの無駄な使用などにより滅ぼしつつある」と人類の自然破壊とその結果の到来を警告したが、その通りである。

このままでいけば、ツバメどころか人間が姿を消す日が到来するのかもしれない。

坂本鉄男

(2015年8月23日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)