日本でもおなじみのローズマリーは、地中海沿岸を原産とする常緑性の木。日本には江戸時代後期に輸入されたと言われ、現在は調理用のハーブとして用いられるだけでなく、庭や花壇などに植えられ観葉植物としても広く知られています。和名はマンネンロウ。「香りの絶えない」という意味からマンネンコウ(万年香)と呼ばれていたものがなまってできた言葉と言われています。生薬として使われる場合は、「迷いをさまして頭をすっきりさせる」という意味をもつ中国名の迷迭香がもとになり、メイテツコウと呼ばれています。
お料理では、まさに万能選手。新鮮な葉や乾燥させた葉は、レバーペーストやジャガイモをベースとした料理に使われるほか、羊、牛、ウサギ、鴨などのローストをはじめとする肉料理やパン、フォカッチャなどとも相性が抜群です。ローズマリーを漬け込んだオリーブオイルは料理に風味を加えるだけでなく、消化を助ける作用もあると言われています。また葉に比べて馴染みの薄いローズマリーの花は、サラダなどに用いられます。
ローズマリーにまつわる説話も枚挙にいとまがありません。中でも有名なエピソードは、聖母マリアにちなむ伝説です。聖母がエジプトから逃れる際にマントをローズマリーの木にかけると、もともと白かったローズマリーの花がマントと同じ水色に変わったと言われています。また、近代にはナポレオンの逸話があります。ローズマリーが頭を覚醒させるとして、ナポレオンは作戦を練る際にローズマリーの精油を大量に消費していたそうです。
ローズマリーが象徴するシンボルは、「愛」や「思い出」。それにまつわる民間信仰もたくさんあり、例えば、ローズマリーの小枝を水色のリボンでまとめて枕の下に入れて寝ると、夢で思い出の人に会えるのだとか。嗅覚と記憶の結びつきについてはさまざまな研究もあり、あながち迷信とも言いきれなさそうです。今宵、ローズマリーでお肉をローストしたら、懐かしいあの人が夢で待っているかもしれませんね。
ダンテ・アリギエーリ シエナ
ヴァンジンネケン 玲