ローマ法王フランシスコは、枢機卿時代からおよそぜいたくとは無縁の暮らしを送ってきた。
法王に選出されても、バチカン宮殿内の十数室からなる法王専用住居は、1人には広すぎると、執務や外国使節の謁見などにしか使っていない。普段は市内のサンタ・マルタ館の、2部屋とバスルームだけという質素な住居に住んでいる。
サンタ・マルタ館とは、4月に聖人になった故法王ヨハネ・パウロ2世が1996年に、法王選挙のために世界中から集まる枢機卿の宿泊施設として改築させたもので、普段はバチカン勤務の聖職者や外部からの訪問者の宿舎になっている。法王フランシスコは、食事も宿泊者と同様、セルフサービスの食堂で済ませている。
ところが、前法王庁国務長官のベルトーネ枢機卿が、サンタ・マルタ館の隣にある法王庁所有建物の最上階に、700平方メートルの住居を新築中とメディアに報じられた。自分と家事に従事する尼僧4人のためのついのすみかという。現法王は「聖職者のぜいたくや見え」を厳しく戒めたばかりである。法王はこの件を知り、激しく怒ったとも伝えられている。
前国務長官は結局、新居は半分の350平方メートルだと明らかにしたが、それでも法王の住まいの5倍もある。
坂本鉄男
(2014年5月18日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)